この会議の基礎部門の受賞発表は、解毒酵素遺伝子の欠損でした。有害化学物質が身体に入ってきても、人間はある程度解毒する酵素をもっています。ところが、子宮内膜症の女性では、そういう酵素をつくりだす遺伝子たちの一部に明らかに欠損率が高かったというのです。がん抑制遺伝子として有名なp53やp21にも異変があるという発表も、以前からあります。また、子宮内膜症患者の家族は対照群に比べて七こ一倍の子宮内膜症罹患率で、一卵性双生児の場合は両者に発生する率が高いという報告もあります。ただし、子宮内膜症が遺伝的疾患であると裏づけるために必要なヒト白血球抗原(HLA)との相関関係はなかったそうです。現在のところ、家族性発生率の高さは、生活による環境因子ではないかと言われ、子宮内膜症は遺伝疾患ではないだろうというのが専門医たちの見解です。人間という自然が、現代社会のなかで苦しんでいる日本子宮内膜症協会では、ケベックから帰国した直後に、「子宮内膜症の発生概念図」を作成しました。生体調節システムである免疫系、内分泌系、脳・神経系の総司令部が、脳の視床下部です。この三つの系は独立していると考えられていましたが、近年の分子生物学の発達で、相互にネットワークしていることがわかりました。この視床下部が司る三つのシステムを支えているのが、白血球、ホルモン、サイトカインや神経情報伝達物質で、これらは内因性の化学物質と言えます。白血球は生体防御システムを司る戦士たちで、マクロファージ、好中球、Tリンパ球、Bリンパ球などがあります。ホルモンには、すでに説明した男女の性ホルモンをはじめ、次のようなものがあります。副腎皮質ホルモン(抗炎症や抗ストレス、血中のナトリウムやカルシウムの調節)、副腎髄質ホルモン(脈や血圧、血糖の調節)、甲状腺ホルモン(新陳代謝や血中のカルシウムの調節)、悍臓ホルモン(血中のブドウ糖の調節)、成長ホルモン、乳汁分泌ホルモン。ホルモンやサイトカインや神経情報伝達物質などはまだまだ未知のものもあるそうですが、どれも信じられないほどの微量で複雑に相互作用しあい、微妙なづフンスを保ちながら心身の諸機能を維持・調節し、異常事態の対処までしています。視床下部がいちいち命令しなくても、全身の組織や細胞の中で独白に命令を出して実行される局所活動も活発です。人間が生きているのは心臓と脳が動いているからですが、健やかに生きていられるのは、全身の細胞や組織で多種多様の化学反応がひたすら繰り返されているからです。薬(外因性化学物質)が解毒分解される肝臓は精密化学工場だとよく言われます。実は、それを含めて呼吸や消化をはじめとするあらゆる生命活動は、内因性の化学反応なのです。こういう複雑なシステムのうえに健やかに生きている人間が、図14の破綻要因によって、四方八方からバランスを崩されようとしています。もちろん、二重三重の予備装置は働くでしょうが、それも限界になってくると、誤作動が少しずつ起こりはじめ、長い時間をかけてじわじわと広がっていく。現代の慢性疾患というのは、そんなイメージではないだろうかと私たちは考えています。もちろん、これらの破綻要因のうち、月経に関すること以外は、男性にも子どもにも同じように降り注いでいます。
[参考サイト]
大ベテランがおくるピクノジェノールFORUM