適正な距離を保った人間関係とは、どんなに親しくなっても、相手にすべてをさらけ出してはいけないということである。そして、相手にすべての秘密をさらけ出させるように強要してはならないということでもある。秘密があるからこそ、相手に対して魅力を感じる。すべての秘密が白日のもとにさらけ出されたら、もうそれを探究しようという意欲は湧いてこない。推理小説で、最初から筋書きがわかっていれば、魅力が半減するのと同じことである。適正な距離が恋愛をさらに深化させることもある。スタンダールの『恋愛論』というのは有名なものだから。読んだことのある人も多いだろう。スタンダールは“結晶作用”という言葉を使っている。二人だけの激しいめくるめくような時を過ごした後で一人になったとき、人はその二人で過ごした時間について思い出して、さらに楽しみを反すうする。このようなときに、愛の結晶作用が生じ、相手に対する思いはさらに深まるものである。相手に神秘性を感じなくなってしまったら、その魅力はそこなわれてしまうものだ。こういう考え方は、若い人たちにとって時代遅れといわれるかもしれない。しかし、私はやはりどんな時代になろうとも「全面露出」することには反対である。女性はとくに、神秘性を持たなければ美しく見えないし、男性もまたある程度の秘密を持っていてこそ、魅力的な人間になれるのだ。